明 細 書
試料前処理装置とそれに用いるプローブ
技術分野
[0001] 本発明は、高速液体クロマトグラフなどの送液機構力ゝら溶出される試料液を液滴と して先端部からマイクロプレートやサンプルプレートなどのプレート上に滴下するため のプローブと、そのプローブを含む試料前処理装置に関する。
背景技術
[0002] 従来、高速液体クロマトグラフの分離カラムで分離した試料成分の溶出液を、例え ば MALDI— TuF— MS Matrix assisted laser desorption ionization time of flight mass spectrometry:マトリクス支援レーザ脱離イオンィ匕法飛行時間型質量分析)用サ ンプルプレート〖こ自動的に滴下して分画捕集を行なう場合、高速液体クロマトグラフ( HPLC)用分離カラムで測定対象成分の分離を行 ヽ、分離カラムの先端に配管を介 して UV検出器に接続していた (特許文献 1参照。 ) 0
[0003] 通常、 MALDI用サンプルプレートに滴下させる液滴量は、多くても 2 Lであり、こ のような微量の液滴を滴下させるためには、液体クロマトグラフは流量スケールとして lmLZminの通常の流量ではなぐ 5 μ LZminのミクロスケールや 200nLZminの ナノスケールを用いる。これは、 lmLZminで ごとに滴下させようと思うと、 0. 0 Olminごとのスポットとなり、実質上不可能だ力 である。
[0004] 通常の流量スケールでは内径が 0. 3mm程度の配管が使われる力 流量スケール と配管内径に比例関係を保たせ、分離カラムで分離された成分の拡散を最小限に留 めることが可能である場合、配管内径はさらに小さくなり、ミクロスケールでは 1. 5 μ m、ナノスケールでは 60nmの配管内径になる。
しかし、実際にはコンタミネーシヨン (異物)の混入による配管の閉塞を考慮し、内径 カ^0〜50 111の配管を用ぃてぃる。例えば内径が 50 mの配管を用いる場合、配 管の長さが 500mmのときの配管容量は 1 μ になる。
[0005] その配管容量の大きさは、通常スケールで考えた場合、 lmLZminの流量に対し て 5mLの配管容量に相当するものであり、その多大な配管容量のため、分離カラム
で分離された目的成分は拡散してしまう。ナノスケールでの分析を行なった場合には 、配管容量の影響はより顕著である。
[0006] MALDI— TOF— MSを用いた場合、高速液体クロマトグラフで分離させることによ り、理想的には 1つの目的成分が 1ゥエル上に滴下されることが要求される。
このような要請は MALDI—TOF— MS用の試料を作成する場合に限らず、高速 液体クロマトグラフからの溶出液に反応液などの添加剤を添加する場合にも同様に 存在する。
特許文献 1 :特開 2004— 184149号公報
発明の開示
発明が解決しょうとする課題
[0007] 分離カラムの後ろに UV検出器を備えた場合は、ミクロスケールの分析では UV検 出器で確認されるピーク幅よりも広 、ピーク幅でゥエル上にスポットされてしまう。ナノ スケールの分析に適用した場合、ゥエル上のピークの広がりはさらに数倍に広がり、 高速液体クロマトグラフで分離させた意味がなくなってしまっていた。
本発明は配管容量による拡散を防ぐことを目的とする。
課題を解決するための手段
[0008] 本発明のプローブは、複数の管が同軸上に配置された多重管構造をもち、最内側 の管はミクロスケール又はナノスケールの高速液体クロマトグラフの分離用キヤビラリ カラムの先端部であり、外側の管の 1つがそのキヤビラリカラム力も溶出される溶出液 に添加剤溶液を合流させる添加剤供給管であり、それにより前記溶出液と前記添カロ 剤を含む液滴を形成してこのプローブの先端力 滴下させるものである。
[0009] 本発明の試料前処理装置は、キヤビラリカラムを備えたミクロスケール又はナノスケ ールの高速液体クロマトグラフと、前記キヤビラリカラムの先端に一体的に構成された プローブであって、複数の管が同軸上に配置された多重管構造をもち、最内側の管 は前記キヤビラリカラムの先端部であり、外側の管の 1つがそのキヤビラリカラム力も溶 出される溶出液に添加剤溶液を合流させる添加剤供給管となっており、前記溶出液 と前記添加剤を含む液滴を形成してこのプローブの先端力 滴下させるプローブと、 前記添加剤供給管に添加剤を供給する添加剤供給流路とを備えたものである。
[0010] 添加剤溶液としては種々のものを使用することができる力 好ましい一例は、マトリク ス支援レーザ脱離イオン化法による質量分析法で分析を行なうための試料作成用の マトリクス化合物用溶液である。
[0011] 多重管構造の一例は 3重管構造であり、その場合、内側力 2番目の管を添加剤 供給管とし、最外側の管を溶出液中の移動相とは異なる第 2移動相が流れる第 2移 動相供給管とするか、内側力 2番目の管を溶出液中の移動相とは異なる第 2移動 相が流れる第 2移動相供給管とし、最外側の管を添加剤供給管とすることができる。 この場合、形成される液滴は溶出液、添加剤及び第 2移動相を含むものとなる。
[0012] このような 3重管構造のプローブを備えた試料前処理装置の形態は、その第 2移動 相供給管に第 2移動相を供給する第 2移動相供給流路をさらに備えたものとなる。 例えば、高速液体クロマトグラフを用いてタンパク質の分析を行なう場合、移動相と して水とァセトニトリルの溶液をグラジェント方式の送液機構により組成を変化させな 力 送液している。この高圧グラジェント分析では、移動相の組成が水成分を多く含 んだ状態力 ァセトニトリルを多く含んだ状態へと遷移して 、く。液滴をプローブ先端 部に形成し、その液滴が一定の大きさになったときにプローブ又はサンプルプレート を上下動させて液滴とサンプルプレートを接触させて液滴を移動させる装置では、分 注開始直後と分注終了直前では液滴中の成分が異なり、分注開始直後は水成分が 多く含まれ、分注終了直前ではァセトニトリルが多く含まれるために、プローブ先端部 に形成される液滴の表面張力が変化して、均一な大きさの液滴が形成されな ヽ。
[0013] また、プローブ先端部においてキヤビラリカラム力もの溶出液にマトリクス液を添加し て先端部より分注する場合、プローブ部のマトリクス添加管の材質として、液滴がマト リクス添加管を這 、上がってこな!/、ようにフッ素榭脂など疎水性物質が用いられて ヽ ることが多い。その場合、分注開始直後は液滴が水成分を多く含んでいるためにマト リクス添加管の内径側に液滴が形成される力 分注終了直前の液滴にはァセトニトリ ルが多く含まれるためにマトリクス添加管の外径側に液滴が形成され、液滴の体積が 一定である場合、分注開始直後と分注終了直前とではプローブ先端部に形成される 液滴の外形が異なったものとなる。すなわち、プローブ先端部に形成される液滴のサ ンプルプレート方向への高さが異なるために、プローブ先端とサンプルプレートとの
距離を滴下する際に一定に保つセンサを備えていても、特に液滴量が微量である場 合には液滴がサンプルプレートと接触せず、液滴をサンプルプレートに移動させるこ とができないことがある。
[0014] そのため、本発明の好ましい形態は、前記第 2移動相は前記溶出液中の移動相と 混合することによって前記液滴中の移動相の組成を一定にするものである。
これにより、移動相の組成変化による液滴の外形の変化を抑制することができ、安 定した分注動作を行なうことが可能となる。
[0015] マトリクス液の溶媒としては、水:ァセトニトリル = 1 : 1の飽和溶液がよく用いられる。
プローブ先端部において、分離カラムからの溶出液にマトリクス液を添加して先端部 より分注する場合、分注開始直後の移動相組成が水成分を多く含んだ状態であれ ば、マトリクス液と混合されることで飽和マトリクス液中のマトリクスがプローブ先端に析 出し、安定な分注動作の阻害となり、また、マトリクス中への測定対象成分の浸入によ るキャリーオーバーが問題となる。しかし、上記のようにプローブ先端部に形成される 液滴中の移動相組成を一定に保つようにすれば、プローブ先端部でのマトリクスの析 出を防止することもできる。
[0016] 本発明の他の好ましい形態は、前記多重管のうち前記液滴と接触する最も外側の 管が疎水性材料で構成されているものである。これにより、液滴がプローブ先端部の 外側表面に付着すると ヽぅ不具合を防止することができ、均一な液滴をサンプルプレ ート上にスポットすることができる。疎水性材料の一例はフッ素榭脂である。
[0017] 分画動作の前にプローブ先端を手動で洗浄する操作は煩わしぐ作業性も悪い。
そのため、本発明のプローブの他の好ましい形態は、前記多重管はその最外側に前 記添加剤溶液からの析出物を溶解する洗浄液をこのプローブの先端部に送ることの できる洗浄液供給管を備えて 、る。
[0018] この洗浄液供給管を備えたプローブを備えた試料前処理装置の形態は、前記洗浄 液供給管に洗浄液を供給する洗浄液供給流路をさらに備えたものとなる。
このように、洗浄液供給管を備えれば、プローブ先端部に析出したマトリックス化合 物を自動で除去することができるようになる。
[0019] 洗浄液がプローブに残留した場合、それを布で取り除くこともできる力 その際に布
がプローブに触れるためプローブ位置がずれてしま ヽ、滴下位置が正確でなくなつ てしまうことがある。
そこで、試料前処理装置の好ましい形態は、洗浄液供給流路に洗浄液と切り替え て乾燥用の気体を供給する気体供給流路をさらに備えている。プローブ先端力 気 体を噴出させて、洗浄後にプローブ先端部に残った洗浄液をその気体により乾燥さ せて蒸発させるようにすれば、液滴の滴下位置がずれることがなぐ引き続き行なわ れる生体試料の分画を均一に行なうことができる。
[0020] 本発明の試料前処理装置のさらに好ましい形態は、前記プローブにより滴下された 液滴を捕集するプレートと、前記プレート又は前記プローブを少なくとも上下方向に 移動する支持機構と、前記プローブの先端部と前記プレートとの距離を測定する距 離測定手段と、前記プローブからの液滴滴下時に前記距離測定手段の測定結果に 基づいて前記プローブ先端と前記プレートとの距離が予め設定された距離となるよう に前記支持機構の移動を制御する制御部とをさらに備えたものである。
このように、プローブ先端部とプレートとの距離を測定する手段を設けて、その距離 を一定の距離に接近させることができるようにすれば、プローブと MALDIプレートの 距離が離れすぎたり接触したりすることを防ぐことができる。
発明の効果
[0021] 本発明によれば、プローブ内にキヤビラリカラムをプローブの先端まで延在させたこ とにより、分画する目的成分が配管による拡散の影響を受けることなぐ MALDIプレ ートにスポットすることができる。
発明を実施するための最良の形態
[0022] 図 1は本発明を適用した MALDI— TOF— MS用前処理装置の一実施例を概略 的に示す図である。
高速液体クロマトグラフの分析流路に移動相を供給する送液機構として、流路切換 えバルブ 51、送液ポンプ 48、ミキサ 52を備えている。この送液機構は、流路切換え バルブ 51により流路を切り換えながら、 A液と B液を送液ポンプ 48により吸入してミキ サ 52に送って混合し、それらの溶液を移動相として分析流路に供給するグラジェント 方式の送液機構である。 A液、 B液は例えば水とァセトニトリルである。本発明の送液
機構はグラジェント方式に限られず、単一の移動相を使用する方式でもよい。
[0023] 分析流路としてはキヤビラリカラム 2を用いており、キヤビラリカラム 2の移動相入り口 側には、インジェクションポート 46が設けられている。キヤビラリカラム 2はプローブ 1ま で延在し、プローブ 1と一体的に構成されている。
試料はインジェクションポート 46に注入されるとキヤビラリカラム 2で分離され、プロ ーブ 1の先端力 溶出してサンプルプレート 36上に滴下される。
[0024] J 1は添加剤溶液としてマトリクス液を送液する配管 16とプローブ 1とを合流させる 3 方ジョイントである。配管 16はポンプ 49を備え、マトリクス液をプローブ 1に供給する。 マトリクスとなる化合物としては、ニコチン酸、 2—ピラジンカルボン酸、シナピン酸( 3, 5—ジメトキシ一 4—ヒドロキシケィ皮酸)、 2, 5—ジヒドロキシ安息香酸、 5—メトキ シサリチル酸、痫—シァノ—4—ヒドロキシケィ皮酸(CHCA)、 3—ヒドロキシピコリン 酸、ジァミノナフタレン、 2— (4—ヒドロキシフエ-ルァゾ)安息香酸、ジスラノール、コ ハク酸、 5- (トリフルォロメチル)ゥラシル、グリセリン等を使用することができる。
[0025] J2は第 2移動相を送液する配管 17とプローブ 1とを合流させる 3方ジョイントである。
配管 17は第 2移動相を供給する送液機構として、流路切換えバルブ 54、送液ポンプ 50、ミキサ 56を備えている。
[0026] 第 2移動相用の送液機構は、上記と同じグラジェント方式の送液機構であってもよ いが、ここでは単一の移動相を供給するものとする。
[0027] プローブ 1の先端部は 3重管構造となっており、キヤビラリカラム 2からの溶出液と、 3 方ジョイント J1で合流したマトリクス液、及び 3方ジョイント J2で合流した第 2移動相が プローブ 1の先端で混合されて液滴となって、サンプルプレート 36に滴下される。
[0028] 図 2はこの実施例のプローブ部の構造を詳細に示す断面図である。
上流側の第 1T型 3方ジョイント J1の直交しないジョイント a,bの 2つを高速液体クロマ トグラフからの溶出液が送液されるキヤビラリカラム 2が貫通する。上流側のジョイント a はメイルナットなどの配管部品 10aを用いて密封する力 その際必要に応じてスリー ブ 12などを用いる。
[0029] T型 3方ジョイント J1の直交するジョイント cにはマトリクス液が送液される配管 16が 接続され、メイルナットなどの配管部品 10cで密封する。キヤビラリカラム 2が突出して
いるジョイント bには、キヤビラリカラム 2の外側にキヤビラリ 4をかぶせてメイルナットな どの配管部品 10bを用いて密封する力 その際必要に応じてスリーブ 22などを用い る。
[0030] 下流側の T型 3方ジョイント J2には、上流側のジョイント aからキヤビラリカラム 2とキヤ ビラリ 4の二重キヤビラリが挿入され、メイルナットなどの配管部品 20aを用いて密封す る力 その際必要に応じてスリーブ 32などを用いる。二重キヤビラリカラム 2,4と直交 するジョイント cには第 2移動相を供給する管 17が接続され、メイルナットなどの配管 部品 20cで密封する。最も下流側のジョイント bでは、二重キヤビラリカラム 2、 4のキヤ ビラリ 4の外側に配管 8をかぶせて、メイルナットなどの配管部品 20bを用いて密封す る。
[0031] プローブ 1の先端部はキヤビラリカラム 2, 4及び配管 8により 3重管構造となっており 、最内側の流路であるキヤビラリカラム 2を高速液体クロマトグラフからの溶出液が流 れ、その外側の流路をマトリクス液が流れ、最外側の流路を第 2移動相が流れる。こ れらの液体はプローブ 1の先端で混合されて液滴となり、所定の液滴量となったとこ ろでサンプルプレート 36に滴下される。
[0032] MALDI—TOF— MSで分析を行なう生体試料は高速液体クロマトグラフで分離さ れ、本装置で MALDI—TOF— MS用サンプルプレート 36に滴下して分画される。 マトリクスがプローブ先端で高速液体クロマトグラフの移動相と混合され、サンプルプ レート 36に滴下されていく。
[0033] 一例として、高速液体クロマトグラフの流量が 200nLZmin (0. 1%TFA水 0. 1 %TFAァセトニトリル グラジェント)、キヤビラリカラム 2の外径が 350 m、内径が 7 5 m、長さ力 lOOmm、マトリクス流量が 200nLZmin、マトリクス液が lOmgZmL CHCA溶液、スポット間隔が 30秒とする。ここで TFAとはトリフルォロ酢酸である。
[0034] このような場合、キヤビラリカラム 2による目的成分のピーク幅が 30秒だとすると、ス ポット間隔も 30秒になり、 目的成分は拡散することなぐ 1ゥエル又は 2ゥエルの範囲 で 1成分ずつプレート上にスポッティングされていく。
したがって、 MALDIによるイオン化を各目的成分 1つ 1つについて効率よく行なえ 、イオンィ匕効率のよくない成分でも検出が可能となる。
[0035] 図 3は同実施例においてプローブ先端から液滴を滴下させるための分画装置の一 例を示す概略構成図である。
この分画装置は、高速液体クロマトグラフからの溶出液を滴下するプローブ 1と、プ ローブ 1の先端部の側方に配置され、プローブ 1の先端とサンプルプレート 36との間 の距離を測定する距離測定手段としての近接センサー 35と、プローブ 1先端部の下 方に配置され、プローブ 1から滴下される液滴 6を捕集する MALDI— TOF— MS用 のサンプルプレート 36と、サンプルプレート 36を搭載して上下方向と平面内方向に 移動するステージ 37と、ステージ 37の動作を制御する制御装置 38とを備えて 、る。
[0036] 近接センサー 35としては、例えば、超音波センサーや渦電流センサーを用いること ができる。 MALDI— TOF— MSによる質量分析では、必要とされる試料液の量が 1 μ L以下と非常に微量であることが多いため、近接センサー 35の検出距離は 1〜1. 5mm程度である。
サンプルプレート 36はステージ 37に搭載されて上下方向及び平面内方向に移動 させられる。通常、サンプルプレート 36は、例えば、 192個又は 384個の滴下位置が 定められており、それらの滴下位置にプローブ 1より試料成分を含む液滴 6を滴下す る。
[0037] 制御装置 38はステージ 37の移動を制御する力 その制御としては以下の 2つが挙 げられる。
(1)ステージ 37を水平面内で移動させてサンプルプレート 36上の所定の滴下位置 に正確に液滴が滴下されるように位置決めを行なう平面内制御。
(2)液滴の滴下時にプローブ 1の先端にできた液滴 6とサンプルプレート 36の滴下 位置が接触するようにステージ 37を制御してサンプルプレート 36をプローブ 1に接近 させる上下方向制御。
[0038] ステージ 37に MALDI—TOF—MS用のサンプルプレート 36に代えて FT—IR用 のサンプルプレートを搭載しても、同様の効果を得ることができる。
プローブ 1から滴下する液滴量は任意に変更することができる。
また、近接センサー 35の検出点はオペレータが任意に設定することができる。また 、サンプルプレート 36の初期位置も任意に変更することができる。
[0039] 通常、生体試料の分離分析を行なう HPLCはグラジェント法により分析が行なわれ 、移動相組成の初期値としては有機溶媒濃度の低い値が選択され、移動相成分とし て水の割合が高くなる。水は表面張力が大きいため、移動相中の水の割合が高いと プローブ先端部から出てくる液滴がプローブの外側を伝って上ってくる傾向が強くな る。
[0040] 物質の疎水性'親水性を評価するひとつの目安として接触角を用いることができ、 接触角が大き 、ほど疎水性が強 、。
疎水性材料の好ましい例はフッ素榭脂である。そのようなフッ素榭脂としては、四フ ッ化エチレン榭脂(PTFE)を初めてとして、それを改質した種々のフッ素榭脂を用い ることができる。そのような改質フッ素榭脂としては、四フッ化工チレン一六フッ化プロ ピレン榭脂(FEP)、四フッ化工チレン パーフルォロアルコキシエチレン共重合体 榭脂(PFA)のほか、四フッ化工チレン エチレン共重合体榭脂 (ETFE)なども用い ることがでさる。
[0041] 一般にプローブの材料として用いられて!/、るものの中で最も接触角の大き 、PEEK
(ポリエーテルエーテルケトン)は約 88度であるのに対し、 FEPの接触角は約 120度 である。この実施例では液滴と接触する最も外側の管としてのキヤビラリ 4として FEP チューブを用いるようにすれば、疎水性に優れ、高速液体クロマトグラフ力 の移動 相とマトリクス液との混合液の液滴がキヤビラリ 4の外側に伝わりにくぐプローブ 1の 先端部に均一な液滴を形成することが可能となるので、その液滴はステージの上昇 によりサンプルプレート 36と接触し、サンプルプレート 36上に均一に分画されていく 。なお、キヤビラリカラム 2は溶融石英製、プローブ最外側の配管 8はステンレス製で ある。
[0042] 次に、第 2移動相を改良した実施例を説明する。
グラジェント分析では、分注開始直後と分注終了直前では液滴中の成分が異なる 。例えば、分注開始直後は水成分が多く含まれ、分注終了直前ではァセトニトリルが 多く含まれるようなグラジェント分析では、プローブ先端部に形成される液滴の表面 張力が変化して、均一な大きさの液滴が形成されない。
[0043] また、プローブ先端部において分離カラム力 の溶出液にマトリクス液を添加して先
端部より分注する場合、プローブ部のマトリクス添加管の材質として、液滴がマトリクス 添加管を這 、上がってこな 、ようにフッ素榭脂などの疎水性物質を用いており、分注 開始直後は液滴が水成分を多く含んでいるためにマトリクス添加管の内径側に液滴 が形成される力 分注終了直前の液滴にはァセトニトリルが多く含まれるためにマトリ タス添加管の外径側に液滴が形成され、液滴の体積が一定である場合、分注開始 直後と分注終了直前とではプローブ先端部に形成される液滴の外形が異なったもの となる。すなわち、プローブ先端部に形成される液滴のサンプルプレート方向への高 さが異なるために、プローブ先端とサンプルプレートとの距離を滴下する際に一定に 保つセンサを備えて 、ても、特に液滴量が微量である場合には液滴がサンプルプレ ートと接触せず、液滴をサンプルプレートに移動させることができないことがある。
[0044] 図 4にポンプ 48によって送液される移動相(第 1移動相)と第 2移動相の組成の時 間的変化を示す。(A)は第 1移動相の組成の時間的変化を示す図であり、(B)は第 2移動相の組成の時間的変化を示す図である。
第 2移動相を供給する第 2移動相供給流路は図 5に示されたものである。第 2移動 相を送液する配管 17は第 2移動相を供給する送液機構として、流路切換えバルブ 5 4、送液ポンプ 50、ミキサ 56を備えている。
[0045] 第 2移動相用の送液機構は、流路切換えバルブ 54により流路を切り換えながら、 A 液と B液を送液ポンプ 50により吸入してミキサ 56に送って混合し、それらの溶液を移 動相として分析流路に供給するグラジェント方式の第 1移動相供給流路 2の送液機 構と同じものである。ミキサ 56で混合される A液と B液の溶液の混合比は、分離用の 第 1移動相を作成するミキサ 52で混合される A液と B液の溶液の混合比の逆となるよ うに調整される。
[0046] 図 4 (A)に示されるように、第 1移動相は分注開始直後は A液 (水)の溶液中に占め る割合がほとんどである力 B液の割合は時間とともに直線的に増加していく。それに 対し、(B)に示されるように、第 2移動相は分注開始直後は B液 (ァセトニトリル)の溶 液中に占める割合がほとんどである力 A液の割合は時間とともに直線的に増加して いく。
第 2移動相は、第 1移動相と第 2移動相の混合液の組成が常時、 A液: 液= 1: 1と
なるようにその糸且成が調節されて 、る。
[0047] 例えば、分注開始後ある時間が経過したときに第 1移動相の組成が A液 90%、 B液 10%であったとすると、第 2移動相の組成は A液 10%、 B液 90%となるように調節さ れている。したがって、プローブ 1先端部において混合された溶出液と第 2移動相中 の水とァセトニトリルの混合比は、水:ァセトニトリル = 1 : 1となる。
[0048] MALDI— TOF— MS分析において、分注される液滴量は微量である上に一定で あることが前提であるため、前述のように液滴内の移動相の組成が変化するとプロ一 ブ先端に形成される液滴の形状が変化してしまう。分注開始直後のプローブ先端と 液滴先端との距離は大きくなり、分注終了直前にはその距離は小さくなつてしまうの で、特に分注の液滴設定量力 、さい場合にはその距離の差は顕著になり、予め設 定したプローブとプレートの間の距離では、液滴をプレートに移動させることができな いことがある。
[0049] この実施例では、プローブ先端に形成される液滴内の移動相組成を一定にするよ うにしたので、プローブ先端に形成される液滴の大きさ(高さ)を一定にすることができ 、安定した分注動作を行なうことができる。
[0050] 次に、本発明のさらに他の実施例を図 6と図 7により説明する。
分画動作の前にプローブ先端を手動で洗浄する操作は煩わしぐ作業性も悪いた め、マトリクス液を添加した場合のプローブ先端への析出物を自動で洗浄するように することが望ましい。そこで、プローブの最外側の管に空気及び洗浄液を切り換えて 流せるようにする。
図 6において、移動相を送るポンプ 48、試料を注入するインジェクションポート 46の 流路に沿ってキヤビラリカラム 2が接続されている。
[0051] 分析流路としては図 1で説明した実施例と同じようにキヤビラリカラム 2を用いており 、キヤビラリカラム 2の移動相入り口側には、インジェクションポート 46が設けられてい る。キヤビラリカラム 2はプローブ 1まで延在し、プローブ 1と一体的に構成されている。
[0052] プローブ 1は T型 3方ジョイント J1、J2を備え、上流側のジョイント J1は移動相を送液 するキヤビラリカラム 2とマトリクス液を送液する管 16とを接続させ、下流側のジョイント J2は空気及び洗浄液としてのアセトンを供給する管 18を接続させ、プローブ 1の出口
側の先端部は 3重管構造を形成して 、る。
試料はインジェクションポート 46に注入されるとキヤビラリカラム 2で分離され、プロ ーブ 1の先端力 溶出してサンプルプレート 36上に滴下される。
[0053] 移動相に添加するマトリクス化合物としては第 1実施例で説明したものを使用するこ とができる。このようなマトリクス化合物を溶解する洗浄液は、アセトン、ァセトニトリル などの有機溶剤である。
[0054] マトリクス液は、ポンプ 49によって T型 3方ジョイント J1でキヤビラリカラム 2と接続され ている管 16中を送液され、キヤビラリカラム 2の外側を流れてプローブ 1の先端部から 試料成分を含む移動相と同時に滴下される。
[0055] 空気供給管 19及び洗浄液供給管 18は T型 3方ジョイント J3によって合流し、その 共通の流路となっている配管 17は 3方 T型ジョイント J2によって移動相が流れるキヤ ビラリカラム 2及びマトリクス液が流れる管と接続され、空気及び洗浄液はマトリクス液 が流れる管のさらに外側を流れるようになつている。
[0056] ここではマトリクス液として、例えば、 CHCA( a—シァノ一 4—ヒドロキシケィ皮酸) を水とァセトニトリルの混合溶液で溶解した飽和溶液(lOmgZmL)を使用し、洗浄 液としては、例えばアセトンを使用する。
[0057] 空気供給管 19にはバルブ 28が取り付けられており、バルブ 28の開閉によって空 気の供給が制御される。洗浄液供給管 18にはポンプ 50が設けられており、ポンプ 5
0が動作することで洗浄液のアセトンが洗浄液供給管 18を流れてプローブ 1に供給さ れる。
[0058] 液体クロマトグラフ力もの移動相を滴下する際は、サンプルプレート 36に移動相と 同時にマトリクス液がプローブ 1の先端より滴下される。液体の滴下後はマトリクス化 合物がプローブ 1の先端部に析出することがあるため、洗浄液供給管 18より洗浄液 のアセトンをプローブ 1の先端部に供給し、プローブ 1の先端部を洗浄する。プローブ 1先端部の洗浄後、洗浄液がプローブ 1の先端部に残留しないように、バルブ 28を 開いて空気をプローブ 1先端部に供給し、プローブ 1の先端部に残留した洗浄液を 蒸発させる。
[0059] 図 7はこの実施例のプローブを詳細に示す断面図である。
上流側の第 1の T型 3方ジョイント Jlの直交しないジョイント a,bの 2つを高速液体クロ マトグラフからの移動相が送液される一番細 、キヤビラリカラム 2が横断して 、る。上 流側のジョイント aはスリーブ 12を介し、メイルナットなどの配管部品 10aを用いて密 封されている。
[0060] T型 3方ジョイント J1の直交するジョイント cにはマトリクス液が送液される配管 16が 接続され、メイルナットなどの配管部品 10cで密封されている。一番細いキヤビラリ力 ラム 2が出ているジョイント bでは、キヤビラリカラム 2にキヤビラリ 4が被せられ、スリーブ 22を介してメイルナットなどの配管部品 10bを用いて密封されている。
[0061] 下流側の T型 3方ジョイント J2には、上流側のジョイント aからキヤビラリカラム 2,4が 挿入され、スリーブ 32を介してメイルナットなどの配管部品 20aを用いて密封されて V、る。キヤビラリカラム 2,4と直交するジョイント cには空気及び洗浄液のアセトンを供 給する管 18が接続され、メイルナットなどの配管部品 20cで密封されている。最も下 流側のジョイント bでは、キヤビラリカラム 2,4に配管 8が被せられ、メイルナットなどの 配管部品 20bを用いて密封されている。
[0062] T型 3方ジョイント J2の側方に位置する T型 3方ジョイント J3には、ジョイント aから空 気供給管 19が挿入され、ジョイント bから T型 3方ジョイント J2と接続する配管 17が挿 入され、ジョイント cから洗浄液供給管 18が挿入されて、それぞれの管 24, 18, 26が メイルナットなどの配管部品 30a, 30b, 30cを用いて密封されている。
[0063] 空気供給管 19にはノ レブ 28が設けられており、バルブ 28が開閉することにより空 気のプローブ 1先端部への供給のオン Zオフが切り換えられる。洗浄液供給管 18に はポンプ 29が設けられており、ポンプ 29の動作のオン Zオフによってアセトンが配管 17を通ってプローブ 1先端部に供給されるオン Zオフが切り換えられる。
[0064] マトリクス液は脂溶性物質であるマトリクス化合物を溶媒で高濃度に溶解した溶液 であるため、液体クロマトグラフで試料を分離して溶出させマトリクス液を同時に添カロ して滴下させながら分画を続けていると、プローブ先端部においてマトリクス液が大気 と接して溶媒が蒸発し、プローブ先端でマトリクス化合物が析出する。
[0065] そこで、分析終了後又は次の分析前にポンプ 29を作動させてアセトンを例えば 20 O /z L送液し、プローブ 1の先端部をアセトンで洗浄する。ポンプ 29より送り出された
アセトンは乾燥蒸発用ガスラインと接続させるための T型ジョイント J3を経由してプロ ーブ 1の 2重管と 3重管の間を流れてプローブ 1先端部に固着したマトリクス化合物を 洗い流す。その後、乾燥蒸発用ガスバルブ 28を開き、残留したアセトンを蒸発させる
[0066] この実施例のように、空気供給管 19と洗浄液供給管 18とを T型ジョイントを用い手 接続した場合には、アセトンなどの洗浄液がガスバルブ 28側に逆流しな ヽよう流路 抵抗を調節するのが好ましい。例えば、空気供給管 19として内径 0. 1mmで長さが 1 OOmm程度の配管を使用する。
T型ジョイント J3の代わりに 3方電磁弁を用いてもよぐその場合には洗浄液がガス バルブ 28側に逆流を考慮しなくてもすむ。
[0067] この実施例では、洗浄液流路を備えてプローブ先端部に洗浄液を送るようにしたの で、プローブ先端部に析出したマトリクス化合物を自動で除去することができるように なる。
実施例では 3重管構造のプローブを持つ高速液体クロマトグラフを示した力 2重 管又は 3重管以外の多重管構造のプローブであっても、本発明を適用することができ る。
産業上の利用可能性
[0068] 高速液体クロマトグラフなどの送液機構力ゝら溶出される試料液を液滴として先端部 力 マイクロプレートなどのプレート上に滴下させて MALDI—TOF— MS用の試料 などの試料を調整する前処理に応用することができる。
図面の簡単な説明
[0069] [図 1]試料前処理装置の一実施例を概略的に示す流路図である。
[図 2]同実施例のプローブの構造を詳細に示す断面図である。
[図 3]支持機構及び距離測定手段に関する一実施例を示す概略図である。
[図 4]第 1移動相と第 2移動相の組成の時間的変化を示し、 (A)は第 1移動相の組成 の時間的変化を示す図であり、 (B)は第 2移動相の組成の時間的変化を示す図であ る。
[図 5]試料前処理装置の他の実施例を概略的に示す流路図である。
[図 6]試料前処理装置のさらに他の実施例を概略的に示す流路図である。
[図 7]同実施例のプローブの構造を詳細に示す断面図である。
符号の説明
1 プローブ
2 キヤビラリカラム
4 キヤビラリ
8 配管
10a, 10b, 10c,20a,20b,20c,30a,30b,30c 配管部品
12,22,32 スリーブ
16 マトリクス供給管
18 第 2移動相供給管
36 サンプルプレート
46 インジェクションポート
48, 49, 50 ポンプ
51, 54 流路切換えバルブ
52, 56 ミキサ
J1J2 T型 3方ジョイント