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「抑え」は「先発」に及ばず プロ野球・投手陣の貢献度

野球データアナリスト 岡田友輔

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先発の希望が受け入れられず、一度は契約更改を保留した西武の平良海馬が、2度目の交渉でサインした。更改後の記者会見では「中継ぎをやります」ときっぱり。救援陣が手薄なチーム事情をくみ、先発への思いを封印して再びリリーバーとして歩む決断をした。

打席数を重ねるにつれて打者の投手への対応力が上がる周回効果や、「先発は100球が潮時」とする慣行の定着で、かつてに比べ先発投手の完投数は激減した。相対的に救援投手の重要度が増しているが、勝利への貢献度という点で両者に違いはあるのか。

セイバーメトリクスの指標の一つに「WPA(Win Probability Added)」がある。チームの勝利期待値をどれだけ増減させたかを表すもので、例えば1人の打者を抑えることで勝利期待値が40%から42%に高まった場合、その投手に0.02ポイントが付与される。

データ分析を手掛けるDELTA(東京・豊島)の算出によると、平良が1軍デビューした2019年以降でWPAが最も高かったのは21年の3.69。この年は初めにセットアッパー、シーズン途中からは抑えを務め、プロ野球新記録の39試合連続無失点や20セーブをマークした。WPAはプレーした状況によってポイントが変動し、重要な場面で奪ったアウトはより高く評価される。この年の平良は八回や九回という大事なイニングで好投を続けたことが高い数値につながった。

登板するイニング、点差、走者状況によって局面の重要度は異なる。それを平準化し、純粋に選手の働きだけで勝利期待値の増減を表すものに「WPA/LI」がある。この指標で、平良の最高値は先発を務めた23年の1.78。21年は1.71だった。代替可能な選手と比べてどれだけチームの勝利数を増やしたかを表す重要指標「WAR(Wins Above Replacement)」でも最も高かったのは23年の2.9で、21年は1.5だった。

総合的にみて救援より先発の方が貢献度が高いという結果は全体にも当てはまる。24年に投手のWPAで両リーグトップだったのはライデル・マルティネス(中日、来季から巨人)の5.34。ストッパーとして大事な九回のマウンドに立ち続け、防御率1.09、リーグ最多の43セーブをマークした働きがものをいった。

ただ、同じく投手に限ってWARをみると、トップは3.8の高橋宏斗(中日)。2位以下も宮城大弥(オリックス)ら先発投手が名を連ねた。WPAでは上位20位までに6人がランクインした救援投手は、WARでは一人も20位以内に入らなかった。ちなみにWPAトップのマルティネスのWARは1.0で44位だった。

チームが勝利を目指す上で投手陣にとって最も大切なのは、総失点を少なく抑えること。そこで多大な貢献をするのは多くのイニングを受け持つ先発であり、登板機会という「量」の面で先発に及ばない救援投手が貢献度で水をあけられるのは当然ともいえる。

ストッパーやセットアッパーという「勝ちパターン」の投手が登板するのはリードした終盤。そのリードは、主に先発が長いイニングを好投することや打線が得点を多く奪うことで生まれる。優位な状況を自身の力でつくることができる先発と、味方に優位な状況をつくってもらうことで初めて登板できる救援投手という性質の違いからも、先発の重要性がうかがえる。

そのようにみると、長いイニングを投げられる先発投手を多くそろえることが勝利への近道。チームに大きく貢献できる先発をしっかりこなせる自信があるからこそ、平良は先発を希望したといえる。

もっとも、西武は今井達也、武内夏暉、隅田知一郎、高橋光成とほかに先発で優秀な人材がそろっているのに対し、救援陣は駒が不足気味。能力の高い平良を先発で起用した方がいいのは承知の上で、リードした試合を確実にものにするためにも、救援の適性もある平良を後ろに回すのがベター、と西口文也新監督は考えたわけだ。その考えは理解できるものだ。

米大リーグではWARなどの指標がより重視されている。投手で年俸を多く稼ぐのは、救援より質と量の両面で貢献が多くなる先発の方。WARでも登板状況を加味して評価する方法もあるが、それでも先発の貢献が大きい。将来の大リーグ行きを目指す平良にとっては、自身をより高く評価してもらう意味でも先発を務めた方が得策といえる。ポスティングシステムを使ってのメジャー入りを目指すなら、球団としても先発をさせた方が手にする譲渡金が増える。

それでも、今季リーグ優勝したソフトバンクから42ゲームも離されての最下位に終わった西武にとって最も大事なのは、来季勝つこと。再建を託された西口監督は最適解を平良が救援に回ることだと判断し、球団は様々なインセンティブを付けることで平良に先発断念をのんでもらった。色々な事情に折り合いをつけ、気持ちを新たに臨む平良がどんなパフォーマンスを見せるかが楽しみだ。

おかだ・ゆうすけ 千葉県出身。大学卒業後、民放野球中継のデータスタッフやスポーツデータ配信会社勤務を経て2011年に独立。株式会社DELTA(東京・豊島)を立ち上げ、野球のデータ分析やプロ球団へのコンサルティングなどを手がける。23年9月に「プロ野球・MLBが10倍楽しくなる! よくわかるセイバーメトリクス」、24年4月に「プロ野球を統計学と客観分析で考える デルタ・ベースボール・リポート7」を発刊。

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