+
最新記事
EV

EVは「クルマ」で終わらない――中国EVが「産業地図」を書き換える【note限定公開記事】

DRIVE TO SURVIVE

2025年10月9日(木)08時05分
レベッカ・A・ファニン(ジャーナリスト)
EV最大手の比亜迪のショールーム。背後にBYDのSUV

EV最大手の比亜迪(BYD)のショールーム Shutterstock/Robert Way

<今や中国はEVの電池やセンサーで世界をリードする。その積み上げが、いずれ戦場の力学にも及ぶ――そんな未来が現実味を帯びている>


▼目次
1.20世紀のデトロイト、21世紀の中国
2.化石燃料回帰の代償は重い
3.中国EVが生んだドミノ効果
4.EV技術は戦場でも活躍
5.テスラが追いかける側に

1.20世紀のデトロイト、21世紀の中国

始まりは地球温暖化対策だったかもしれないが、ゴールは戦場の電動化にあり。それが中国発の電気自動車(EV)革命の真実だ。

ガソリン車をEVで駆逐すれば二酸化炭素排出量が格段に減るのは事実だが、その先に見据えるのは電動技術とAI(人工知能)を軸とした新たな軍産複合体の時代。このままだと、そこで勝つのは中国だ。

アメリカがもたついている間に、中国はEV産業の垂直統合を成し遂げ、量産技術やサプライチェーンだけでなく、100年先の社会で普及しそうな先端技術の分野でも優位に立っている。

EVで培ったバッテリーの技術はスマートフォンにもドローン(無人機)にも、そして未来の自律型兵器にも転用できる。

この研究開発のパイプラインは深いところで軍事部門に通じている。

AIナビゲーションやロボットにも、いわゆるスマートシティーの建設にも通じる。こうした技術を制する者が未来の社会インフラを制し、未来の戦争に勝利することになる。

「自動車部門の勢いと革新力。それが国の産業力の源泉だ」と本誌に語ったのは元米国務省高官で東アジア情勢に詳しいデービッド・ファイス。「規模の追求にも技術革新の波及にも自動車部門は欠かせない」

見よ、今や中国製のEVは車輪の付いたコンピューターだ。音楽に合わせて「踊る」車もあれば、屋根からドローンを飛ばせるタイプもある。

こうしたEV革命の波に乗り遅れれば、アメリカは気候変動に対処できないだけでなく、20世紀に築き上げた世界一の産業基盤をも失うことになる。

かつてアメリカの独創力の象徴だったデトロイトは、ガソリン車を国内向けに生産するだけの過去の遺物に成り下がるだろう。

そしてアメリカは自らを超大国に押し上げた技術的優位を失い、電動化に突き進む世界から取り残される。

中国がEV市場に参入したのは2009年。ガソリン車では外国勢に勝てないから次世代の電動車両で勝負しようという国策だった。

そして潤沢な補助金と「世界の工場」の量産能力を武器に、飛躍的な成長を遂げた。国際エネルギー機関(IEA)によれば、今や世界のEV生産の70%超を中国勢が占めている。

newsweekjp20251008042831.jpg

中国は車載電池製造で世界トップを走る(広西チワン族自治区柳州市の工場) COSTFOTOーNURPHOTO/GETTY IMAGES

IEAの試算では、30年には全世界で販売される新車の4割がEVになる見込みだ。しかし中国では、既に昨年実績で5割を超え、今年は6割に達する可能性がある。対するアメリカのEVシェアは昨年実績で1割程度だ。

2.化石燃料回帰の代償は重い

「もしもアメリカが迅速に新エネルギー車に移行できなければ、デトロイトは内燃機関に頼る大型車のニッチなサプライヤーに成り下がる」。

そう警告するのは、自動車業界を専門とするコンサルティング会社ダン・インサイツのマイケル・ダンだ。

カリフォルニア大学バークレー校の名誉教授(政治経済学者)ジョン・ザイスマンも「今のアメリカは内燃機関の孤島に閉じこもり、爆音をとどろかす大型車ばかり製造していた1950年代に逆戻りしつつある」と指摘した。

もはや中国製EVの勢いを止めるのは手遅れかもしれない。

さまざまな機能を備え、魅力的で価格競争力もある中国製EVはイギリスやフランスなどヨーロッパ市場で着実にシェアを拡大している。

ブラジルではEV販売の8割以上、メキシコでもほぼ3分の2を占めている。

その原動力となっているのが人件費の安さと大規模な部品供給網、競争力も規模もある無数の工場、そして政府の補助金だ。

これらが組み合わさることで、過去5年間でEVの平均価格は1割ほど下落し、ガソリン車と同等の水準になっている。

こうしたなか、アメリカは中国に追い付く努力よりも中国製EVを締め出すための取り組みを強化している。

アメリカは今年に入って、国家安全保障上の懸念を理由に、ネット接続機能を持つ中国製EVの輸入と販売を規制した。

民主党のジョー・バイデン率いる前政権はEVの普及促進を目指して税額控除などの優遇策を打ち出していたが、政権に復帰したドナルド・トランプは化石燃料への回帰を鮮明にし、これらの措置を廃止してしまった。

しかしガソリン車に固執してEVへの移行が遅れれば、アメリカの伝統的な工業地帯は失業率と貧困の深刻な増大に見舞われるだろう。

そもそもEVはガソリン車より部品数が少なく、自動化された組立工場ではそれほど多くの労働力を必要としない。

またEV工場の従業員に求められるのは電気システムの操作や高電圧部品の安全な取り扱い、ロボットのプログラミングやメンテナンスなどのスキルであって、20世紀初頭にフォードの工場で生まれた流れ作業の組み立て技術とは大きく異なる。

newsweekjp20251008042935.jpg

ガソリン車がずらりと並ぶ米国内のフォード販売店 BRANDON BELL/GETTY IMAGES

アメリカは20世紀に「自家用車」という市場を生み出して世界をリードした。

それでアメリカの経済も都市の景観も一変し、グローバルな影響力も増した。フォードが自動車の量産に成功したことで、20世紀前半には庶民が自動車を持てるようになった。

これで労働力の流動性が高まり、郊外住宅地の開発が促進され、鉄と石油の業界に強い追い風が吹き、第2次大戦後のアメリカは世界に冠たる大国になれた。

その成長モデルを、今は中国がEVで再現しようとしている。

その2次的な恩恵は都市のスマート化やサプライチェーンの拡大、AIナビゲーションやロボット工学、バッテリー技術などに及ぶ。

ここで負けたら、アメリカは自動車市場だけでなく、次世代の産業と軍事技術の基盤まで失うことになる。

3.中国EVが生んだドミノ効果

中国でEVが主流になれたのは、国内に巨大な工業力と近代的な社会インフラがあるからだ。

◇ ◇ ◇

記事の続きはメディアプラットフォーム「note」のニューズウィーク日本版公式アカウントで公開しています。

【note限定公開記事】EVは「クルマ」で終わらない――中国EVが「産業地図」を書き換える


ニューズウィーク日本版「note」公式アカウント開設のお知らせ

公式サイトで日々公開している無料記事とは異なり、noteでは定期購読会員向けにより選び抜いた国際記事を安定して、継続的に届けていく仕組みを整えています。翻訳記事についても、速報性よりも「読んで深く理解できること」に重きを置いたラインナップを選定。一人でも多くの方に、時間をかけて読む価値のある国際情報を、信頼できる形でお届けしたいと考えています。

ニューズウィーク日本版 高市早苗研究
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年11月4日/11日号(10月28日発売)は「高市早苗研究」特集。課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら



あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米肥満薬開発メッツェラ、ファイザーの100億ドル買

ワールド

米最高裁、「フードスタンプ」全額支給命令を一時差し

ワールド

アングル:国連気候会議30年、地球温暖化対策は道半

ワールド

ポートランド州兵派遣は違法、米連邦地裁が判断 政権
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216cmの男性」、前の席の女性が取った「まさかの行動」に称賛の声
  • 3
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評家たちのレビューは「一方に傾いている」
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 6
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 7
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 8
    【銘柄】元・東芝のキオクシアHD...生成AIで急上昇し…
  • 9
    なぜユダヤ系住民の約半数まで、マムダニ氏を支持し…
  • 10
    「非人間的な人形」...数十回の整形手術を公表し、「…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 5
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 6
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 7
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 8
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 9
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 10
    米沿岸に頻出する「海中UFO」──物理法則で説明がつか…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中

点击 这是indexloc提供的php浏览器服务,不要输入任何密码和下载